忍者ブログ
漫画やアニメに出て来る料理を再現したり、萌え語りをしたり、日々の徒然を書き綴ったりするブログ。
| Admin | Res |
<< 03  2025/04  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30    05 >>
[731]  [730]  [729]  [728]  [727]  [726]  [725]  [724]  [723]  [722]  [721
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

後編です。

拍手[1回]





 
10月23日 午後5時30分
「花よ輝け!プリキュア・シルバーフォルテウェイブ!!」

 裂帛の気合とともに放たれた銀色の花がデザトリアンを通過した。
 …デザトリアンが浄化されて宙からゆっくりと降りてきた心の花を、素体にされた人が閉じ込められている水晶玉に当てる。気を失っているその人を安全な場所にそっと座らせて、キュアムーンライトは表情を引き締めて顔を上げた。
 彼女の視線の先には新たなデザトリアンと、砂漠の使徒コブラージャがいる。
 ムーンライトの傍らで、妖精コロンが眼差しをきつくした。

「奴ら、一体何のつもりなんだろう。『今日は少しばかり趣向を変えてみるよ』とか言っていたけど」
「言葉通りの意味でしょう。私達を馬鹿にして遊んでいるのよ」
「遊んでいる…本当にそれが奴らの目的なんだろうか?」
「他に何か企んでいるかもしれないけど、デザトリアンが出現した以上放っておくわけには行かないわ!」

 地を蹴ってデザトリアンに挑むキュアムーンライトを見つめてコロンはますます眼差しをきつくした。
 砂漠の使徒クモジャキーがデザトリアンと共に現れたのは一時間ほど前。コロンは即座に月影ゆりを呼びにいき、ゆりはプリキュアに変身してデザトリアンを浄化し、クモジャキーは姿を消した。そこまではいつもと同じだった。いつもと違ったのは、その直後に別の場所でデザトリアンが出現したことだった。
 二体目のデザトリアンを伴ってキュアムーンライトを待っていたのはもう一人の砂漠の使徒コブラージャだった。一体何の真似?と詰問するムーンライトに人を小馬鹿にするような笑みを見せて彼は言った。『今日は少しばかり趣向を変えてみるよ』と。そして二体目のデザトリアンを浄化した直後、またしても別の場所で三体目のデザトリアンが出現したのだ。そんな、砂漠の使徒とキュアムーンライトの『鬼ごっこ』が延々と続いている。
 …もはや何体目か分からないデザトリアンを浄化したムーンライトが額の汗を拭った。

「大丈夫かい、ムーンライト?」
「問題ないわ。今日のデザトリアンはスナッキーレベルで手応えのない奴ばかりだから。数をぶつけて私を疲労させたところで倒そうと思ってるなら残念だったわね。さ、そろそろ鬼ごっこはおしまいにしようかしら?クモジャキー」
「残念ながら鬼ごっこはまだ続行ぜよ!さぁ行け、デザトリアン!」

 デザトリアンをけしかけるだけけしかけて、クモジャキーは高みの見物を決め込んでいる。
 キュアムーンライトは唇を噛んで目の前のデザトリアンを倒すべく身構えた。
 …違和感が胸の奥で燻っている。
 気まぐれな上に何を考えているか分からない砂漠の使徒のやることだ、日頃の鬱憤晴らしを兼ねた嫌がらせでデザトリアンの出現と浄化の鬼ごっこを仕掛けてきたと言われればそれまでだ。でも、いくら彼らでもそんな馬鹿げたことをするだろうか。ムーンライトがデザトリアンを浄化すればその分だけ心の大樹は力を取り戻すと言うのに。下手を打てば自分達が浄化される危険も伴うというのに。少なくないリスクを背負ってまで鬱憤晴らしの遊びを仕掛けるなど、砂漠の使徒総司令官のサバークが認めるだろうか。

(或いは…この『鬼ごっこ』には、リスクを上回るメリットがあるということ?)

 そんなことを考えながら目の前のデザトリアンを浄化する。デザトリアンにされていた人を元に戻すと、コロンが真剣な顔で声を掛けてきた。

「ムーンライト。ちょっと気になることがあるんだけど」
「何?」
「この『鬼ごっこ』が始まった時はクモジャキーとコブラージャが交互にデザトリアンを生み出していたのに、途中からクモジャキーだけがデザトリアンを生み出しているんだ。コブラージャの姿がいつの間にか見えなくなっているんだよ」
「…………。怪しいわね。クモジャキーとデザトリアンは囮か陽動で、コブラージャは本命の目的のために動いていると言うこと?」

 ――ドォォン!!
 腹の底まで響く衝撃音と共に、デザトリアンの拳がムーンライトを掠めて壁にめり込んだ。
 デザトリアンの肩越しに見えるのは不敵な笑みを浮かべたクモジャキーだ。
 キュアムーンライトは唇を噛んだ。

「…コロン」
「ん」
「奴らの目的が他にあるのは確かだと思う。でも、私はデザトリアンを放ってコブラージャを探しに行くわけにはいかないわ」
「…………」

 コロンは無言で頷くとコブラージャを探して飛び立った。




 傾きかけた太陽が公園をオレンジ色に染める。大きな時計や遊具の影が長くのびている。
 美しい光景に目を細めて、コブラージャはビジネスバッグを枕にしてベンチで眠っている赤毛の女性に視線を向けた。キュアムーンライトとの『鬼ごっこ』を始める直前にこの公園に呼び出して、心の花を奪った上で植え込みに隠しておいたのだ。後は彼女が目を覚ますのを待って完全に絶望させ、枯れた心の花を取り出せば作戦は終了だ。
 …と。
 ドォーン!!!
 季節はずれの花火があがるのを見てコブラージャは微かに眉を潜めた。デザトリアンがあげた花火は『キュアムーンライトが陽動作戦に気付いた』というクモジャキーからの合図だ。陽動作戦に気付いたところでキュアムーンライトは二人の目的を知るはずがないし、コブラージャの居場所をそう簡単に突き止められるとは思えない。…が、相手が相手だ。用心するに越したことはないだろう。
 場所を移動すべきか、下手に動くと逆に目立つからじっとしているべきか悩むこと数分。
 植え込みの葉がかさりと触れ合う音がした。コブラージャが音のした方に目を向けると、キュアムーンライトの妖精が花火のあがった方角に全力で飛び立つ姿が見えた。

「…チッ!まさかこんなに早く見つかるなんて!」

 咄嗟にブロマイドを投げつけたがギリギリで逃げられた。
 妖精がキュアムーンライトに合流し、クモジャキーとデザトリアンの妨害を振り切って二人がここまで来るには多少の時間がかかるだろう。しかしのんびりしている余裕はない。
 …どうする。
 行動を決めかねて迷った時、ビジネスバッグの中で携帯が鳴り出した。その音に覚醒を促されたのか、女が微かに睫毛を震わせて目を開けた。全く状況が飲み込めていないのだろう、コブラージャに背を向けて辺りを見回している。

「…………」

 一計を思いついたコブラージャは、そっと彼女のバッグを開けて携帯を取り出した。着信画面を見ると『課長』の文字。
 唇の端を凶悪に持ち上げて彼は通話ボタンを押した。

「もしもし」
『…………』

 電話の向こうで相手が戸惑っている気配を感じた。当たり前だ、女性の携帯に電話をかけて男が出れば何事かと思うだろう。

「もしもし?おかけになった番号は斉藤さんのもので合っていますよ」

 携帯のついでに見つけた彼女の名刺を指先で弄びながら教えてやると、様々な可能性を考えたような数秒の沈黙の後、不審感を隠し切れない声が返ってきた。

『大変失礼とは存じますが、あなたはどなたでしょうか』
「名乗るほどの者ではありませんよ。彼女が電話に出られない状況だったので、代わりに出たまでですから」

 ちらりと横を見ると、目を覚ました女が公園の時計を見て真っ青になり、バッグを開けて必死に中身をかき回していた。まさか隣にいる男が自分の携帯で電話しているとは思わず、携帯を探しているのだろう。
 コブラージャはクスクス笑いながら彼女の肩を叩いて、自分の持っている携帯を指差した。まだ状況が飲み込めずきょとんとしている彼女にも声が聞こえるように携帯を少し耳から離してやる。

『電話に出られない状況とおっしゃいますと?斉藤は事故にでも遭ったのでしょうか?それとも急病で倒れたのでしょうか?』
「いえ、そんな切羽詰った状況ではありませんよ。彼女は僕の隣で寝ていただけですから。そちらからの電話の着信音で目を覚ましたようですが、なにやら取り込み中でしたので」

 電話の向こうから聞こえる声とコブラージャの言葉に彼女の顔色がサーッと変わっていった。

『…………。重ね重ね失礼とは存じますが、あなたは斉藤とはどのような関係で?』
「一、二回お茶とおしゃべりをした程度の仲ですよ。今日は、失敗の赦されない大事な商談があると彼女から伺っていたので、その前にお会いする約束を…」
「ちょ…ちょっとあんた!」

 血相を変えた彼女がコブラージャの手から携帯をひったくった。

「何をデタラメ言ってるのよぉん!」
「デタラメとは人聞きの悪い。僕の言っている事は全部事実だろう?大事な商談の前に会う約束をしていたのも、君が今まで僕の隣で寝ていたのも」
「妙な誤解を招くような物言いをしないで!」
「なら、自分で釈明したまえ。時間がないから手短にね」

 ひらり、手を振ってコブラージャは携帯を指した。
 赤くなったり青くなったり忙しい彼女が慌てて電話にかじりついた。

「課長!申し訳ありません、今まで気を失っていたみたいで、決して寝ていたわけでは…」
『斉藤君。先程電話に出た男性と君はどんな関係なのかね?彼は、君とは一、二回会って話した程度の仲だと言っていたが、それは事実かね』
「はい、それは事実です。あ…あの、勤務時間中に私的な用事を入れたことは、本当に申し訳ありません」
『根本的な問題はそこではないよ』
「あっ!そ、そうですね!大事な商談が…」
『それよりも大きな問題があるだろう』
「え?」
『一番の問題は君の情報管理の甘さだよ。事故や急病で倒れてそのドサクサで書類や携帯を盗まれたと言うなら酌量の余地があるが、一、二度しか会った事のない人間に重要な商談の日程を話し、社外秘の書類を持ったまま重要な商談の直前にその人に会い、商談先にも行かずにその人の隣で寝ていた挙句、厳重に管理すべき業務用携帯を使われたとあってはフォローのしようがない』
「…………」
『その男性に失礼なのは百も承知で言うが、仮に彼がライバル会社のスパイだったら、我が社の情報を引き出すために君に接触していたとしたら、そして君から企業秘密が流出したら、君はどう責任を取るつもりだったのかね』
「…………」
『とにかく今日は直帰したまえ。追って指示があるまで自宅で待機するように』
「…………」

 プツッ。ツー、ツー、ツー…。
 携帯を握った手が力なく降りた。彼女の顔からは表情も血の気も引いている。
 …目を凝らすと、彼女の心の花が完全に枯れているのが見えた。
 茫然自失の彼女の頬を流れた涙を白い指でそっと拭って、コブラージャは優しく言った。

「醜いね…簡単に弱り、すぐに嫉妬や憎悪などの黒い感情に染まる人間の心はとても醜い。特に、可愛い部下の言葉よりもどこの誰かも分からない僕の言葉を信じるような人間の心はね」
「…………」
「そんな醜い人の心など世界には必要ない。醜い人の心が枯れ果てた世界、砂漠の王デューン様が支配する世界こそが美しい。君もそう思うだろう?」
「砂漠の王?デューン?」
「喜びたまえ。君は、新たな世界の誕生に貢献し、新たな世界の王に幹部として仕える名誉に与れるのだから」

 怪訝そうな顔をしている彼女に笑みを見せてコブラージャはベンチから立ち上がった。
 両手を合わせ、砂漠の使徒の幹部の力を解放する。

「心の花よ!出てくるがいい!!」
「きゃぁぁーーーーっ!?」

 光に包まれた女は、再び水晶に閉じ込められた片栗の花と球体に姿を変えた。

「フフ…ミッション・コンプリート」

 枯れた花を封じた水晶と、女を閉じ込めた球体を持ってコブラージャは公園から姿を消した。




 浄化の光に包まれるデザトリアンを見てクモジャキーは苦々しく唇を曲げた。
 目的がキュアムーンライトの足止めだから質より量でデザトリアンを生み出していたが、片っ端から浄化されるわ人間達は避難するわでデザトリアンの製造が追いつかなくなってきた。かと言って素体になる人間を探そうと他の場所に移動すれば、キュアムーンライトはクモジャキーを無視してコブラージャを探しに行くだろう。
 デザトリアンを浄化したキュアムーンライトは真っ直ぐにクモジャキーを見据えてきた。

「デザトリアンはもう打ち止めかしら?」
「…次は俺が相手ぜよ」

 腰に携えた細身剣を抜いてキュアムーンライトに突きつけたその時、少し前に戦いの場を離れた妖精が猛スピードでキュアムーンライトのところに戻ってきた。

「ムーンライト!コブラージャを見つけた!」
「!」
「奴はどこ?何をしていた?」
「駅前の公園にいた。眠っているらしい女性と一緒だったけど、心の花を奪おうとする様子はなかったし、何をしているかまでは」

 バシィン!!
 コロンめがけて放たれた赤い閃光弾を弾き返してキュアムーンライトは不敵な笑みを浮かべた。

「やはり本命はコブラージャの方だったのね。どうせ答える気はないでしょうけど一応聞くわ。目的は何?」
「コブラージャは人間の女とデートしているだけじゃき。他人の恋路に首を突っ込むなど野暮と言うものぜよ、キュアムーンライト」
「笑止!」
「…ムーンライト、あそこ!」

 キュアムーンライトが攻撃の姿勢を取った時、コロンが切羽詰った声で叫んだ。
 コロンが指差す先を見上げた彼女は息を飲んだ。
 完全に枯れた心の花を閉じ込めた水晶と、女性が閉じ込められた球体を持ったコブラージャがビルの屋上に姿を現していた。
 毒蛇の名を持つ優男がこれ見よがしに水晶と球体を掲げると、沈む寸前の夕陽に照らされたそれらがキュアムーンライトを嘲笑うように輝いた。忌々しいほどに眩しく、美しく。

「クモジャキーが陽動だとすぐに気付いたのは流石だったねぇ、キュアムーンライト。でも残念、この勝負は僕達の勝ちだ」
「その人をどうするつもり!?」
「敵である君に教える義理はないよ。でも、そうだねぇ…次に会う時は新しい仲間を紹介できるかもしれない、とだけ言っておこう」
「新しい仲間…?」
「今日は楽しかったよ、キュアムーンライト。…アデュー」

 美しく整った顔に歪んだ笑みを浮かべてコブラージャは姿を消した。
 彼の言葉に一瞬あっけに取られ、ハッと我に返って振り向いた時にはクモジャキーの姿も消えていた。

「…………!」

 キュアムーンライトは唇を噛んだ。
 少なくないリスクを承知で砂漠の使徒が『鬼ごっこ』を仕掛けてきた本当の理由は、新たな幹部となる人間の確保だったのか。新たな幹部を生み出せば、プリキュアに奪われた心の種で回復する以上のダメージを心の大樹に与えられると踏んだのだろう。
 …そんなこと、させるものですか。新たな幹部が生まれても、砂漠の使徒の野望は私が阻止してみせる。
 固い決意を胸に拳を握り締め、彼女は空を見上げた。
 全ての心が満ちるまで、私は戦い続ける…!


10月27日 午後3時40分 
 仄暗い部屋の中で培養液を満たしたカプセルが淡い光を放つ。カプセルの中には赤毛の女が浮かんでいる。
 サバークは研究室のベッドっで眠っている赤毛の女とカプセルの前に置いた片栗の花を見遣った。心の花を核にして、素体となった人間の体細胞から作り出した仮初の肉体を作り出せば新しい幹部の出来上がりだ。
 問題は素体となった人間の『後始末』だが…。
 サバークは研究室の通信回線を開いた。モニタに映った相手の名前は『山ノ中診療所院長』。『月影博士』が懇意にしていた名医だ。

「…私だ。実はまた、原因不明の昏睡状態に陥った人間が発見されてね。そちらで預かって経過を見て欲しいのだ。…ああ、当人の家族にはこちらから手を回しておく。患者は私の部下に届けさせるから心配ない。それから、……」

 数瞬の逡巡を挟んで、サバークは努めて感情を押さえた声で尋ねた。

「先に入院させた二人の様子を見たいのだが」

 …しばらくの間があってモニタの画面が切り替わり、山ノ中診療所の病室が映し出された。二つ並んだ白いベッドで眠っているのはクモジャキーとコブラージャに瓜二つの男性だ。昏睡状態ではあるが他に異常はない、と報告を受けたサバークが微かに安堵の息を漏らした時、背後のモニタに不意に光が灯った。

『おやぁ?その二人は確か、僕の部下の材料になった人間じゃなかったかな?』
「!……デューン様」

 病室が映ったモニタの、サバークを挟んで反対側に映ったのは王の姿。
 即座に山ノ中診療所との通信を切って恭しく王に向き直り、頭を垂れたサバークの上から声が降る。

『ねぇサバーク。心の花を失ったあいつらの肉体なんてもう用済み、搾りかすじゃないか。どうして君はそんな物を後生大事に取っておいたりしてるのかなぁ?』
「…………。デューン様。地球人から砂漠の使徒の幹部を生み出すのは初めての試み。万が一、予期せぬ事態が生じた時は、保存しておいた彼らの肉体が何かの役に立つかもしれません」
『予期せぬ事態、ね。それは、キュアムーンライトに奴らが浄化された時のことかい?』
「…………」
『むしろ、抜け殻の肉体を処分したらどうだろう。退路を断てば奴らも本気を出すんじゃないかな?』

 クスクス…。
 ノイズ交じりの少年の乾いた笑い声が薄暗い研究室に響く。
 幹部と言えども誕生のメカニズムはデザトリアンと変わらない。プリキュアに浄化されれば、核である心の花は本来の持ち主の元に戻り人間に戻る。しかし帰るべき肉体がなければ彼らを待つのは『消滅』、即ち死だ。要するに、プリキュアに敗北した時の『セーフティネット』を失えば、幹部達は本腰を入れて自分達の使命に取り組むのではないか?とデューンは言っているのだ。
 …サバークは静かに言葉を返した。

「お言葉を帰すようですが、王よ。クモジャキーとコブラージャは我が強すぎる故に本来の目的と手段を混同することがしばしばございますが、砂漠の使徒の使命には忠実かつ熱心に取り組んでおります。事実、新たな幹部を見つけ出せと命じて二週間も経たないうちに、素体となる人間と心の花を捕獲して参りました」
『…ふぅん?』
「王に対する彼らの忠誠心に曇りはありません。もし王が彼らの忠誠を疑うような命令を下されたら、二人の心に王への不信が芽生え、忠誠心には不穏な陰が落ちましょう」
『…………』

 仮面の下の真意を探るような沈黙が落ちる。
 サバークが顔を上げたままノイズの向こうに見える王を見つめること十数秒。
 
『…いいだろう。僕は、お前の働きは評価している。新しい幹部も見つかったことだし、今回はその言葉で納得してあげよう』
「ありがとうございます」
『お前達には期待しているよ、サバーク』

 ノイズが大きくなってデューンの声が遠くなり、通信が切れた。
 サバークは無言のままモニタを見つめ、何かを吹っ切るように踵を返し、昏睡状態の女を抱えて研究室を出た。


10月30日 午後10時25分
 …山ノ中診療所の屋根にゆったりと腰を降ろしてコブラージャは満月を見上げていた。青白い月の光に照らされた彼の姿は幻想的なほどに美しかったが、生憎と傍らのクモジャキーは美しいもの綺麗なものには興味がない。つまらなそうな顔で眼下を見ているだけだ。彼の視線は病院の玄関に向けられていて、そこには三人目の幹部の材料になった女が寝かされている。

「ああ、今夜は月が美しいねぇ」
「だから何ぜよ。月なんぞ、キュアムーンライトを連想させて忌々しいだけじゃき。…ああ、退屈ぜよ。いつまで待たせる気なんじゃ?」
「サバーク博士がここの病院の院長に連絡を入れたって言ってたんだけどねぇ」
「女をこの病院に送り届けろ、しかし病院の人間と顔を合わせてはならん、病院の人間が女を保護するのを確認してから帰還しろ…はぁ、博士の命令は意味不明ぜよ。病院の人間を叩き起こして女を引き渡せばそれで終わるのに、何故まどろっこしいことをするんじゃ」
「そう思うなら君は帰ったら?僕は月見を兼ねてここに残るから」
「そういうわけにはいかんぜよ。…ん」

 どうのこうの言って付き合いのいいクモジャキーが足を組み替えた時、病院の玄関が開いてスタッフらしき人間が数人出てきた。玄関に寝かされていた女性に声を掛けたり、脈を取ったり、持ち物を開けたり色々と確認している。
 これにて任務終了とばかりにクモジャキーがさっさと立ち上がり、まだ月見を続けたかったらしいコブラージャが名残惜しげに立ち上がった時、人間達がざわめく気配があった。しきりに呼びかけているところを見ると、女が目を覚ます気配があったようだ。人間達は『呼びかけに反応はするが意識は戻りそうにない』『昏睡状態のあの二人も同じ反応をしたし、今日は一体どうしたんだ』『ハロウィンが近いし、幽体離脱した魂でも帰ってきてたのかもな』と口々に言いながら女を病院の中に運んでいった。
 漏れ聞こえた会話が妙に気になって二人がなんとなく突っ立っていると、不意に背後に人影が現れた。

「お迎えに来たわよぉん、先輩」
「!」
「君は…」

 二人に声を掛けてきたのは、初対面ではあるが見覚えのある、赤い髪と金色の目の女だった。黄色を基調にした服を纏い、黄色のダンダラ模様のマントを羽織っている時点で彼女が何者なのかは聞かずとも分かる。
 クモジャキーとコブラージャは視線を合わせて微笑みあい、女に向き直った。

「わざわざ先輩を迎えに来るとは、なかなか感心な新入りぜよ」
「あらぁん、勘違いしないでね?お届け物を頼んだ先輩達の帰りが遅いからちょっと様子を見て来いって博士に頼まれたから来ただけ。迎えに来てあげたわけじゃないわよぉん」
「何じゃ、今はやりのツンデレか?」
「僕は砂漠のスターコブラージャ。こっちは熱血馬鹿のクモジャキー。君は?」
「サソリーナよぉん。将来の目標は、サバーク博士に次ぐ大幹部になって、先輩男子を顎で使うことよぉん」
「ウワーハハハハハ!これまたでっかい目標じゃのう!俺達が目を付けただけあってなかなか見所のある女ぜよ!」
「ま、精々頑張りたまえ。よろしく、サソリーナ」
「うふっ、よろしくねぇん」

 先輩幹部が差し出した手をサソリーナはにっこりと笑って握り返した。
 これが、砂漠の使徒三幹部の初めての出会いだった。
 



 ――三年後、同じ面子が同じ場所で『二度目の初めての出会い』をすることを、この時は誰も知らなかった。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
Mail
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
管理人のみ表示(チェックを入れると管理人だけに表示できます)
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
フリーエリア
最新CM
[02/11 ルナ]
最新TB
プロフィール
HN:
龍神楚良(たつがみ そら)
HP:
性別:
非公開
趣味:
星矢の冥界神々に萌えること、東方
バーコード
ブログ内検索
P R
アクセス解析

Powered by Ninja Blog    Material by mococo    Template by Temp* factory
Copyright (c)青い空と緑のかえると漫画メシ All Rights Reserved.


忍者ブログ [PR]