漫画やアニメに出て来る料理を再現したり、萌え語りをしたり、日々の徒然を書き綴ったりするブログ。
タナマニアンソロ「DeadendGame」に参加させて頂くと言う夢のような体験をさせて頂き、私自身は参加できないもののイベントが近づいてテンションがタダ上がってきたので、アンソロ応援と投稿SSの紹介と言う大義名分を掲げて、投稿したSSの前振り部分を書いてみました。投稿作品はこのSSの続きで、ちょっと趣向を変えてマニさん視点のマニさん一人称で書きました。そしてテンパるあまり解説を入れ忘れたのですが、「死刑執行人の生誕」の続き的な話になっています(投稿作品は、それ単体で読めるように作ったつもりです…)。
アンソロサイト様へは星矢部屋からリンクを張っております!
SSは続きから。
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空は青く澄み渡り、燦々と輝く太陽は空気の温度を必要以上に高くして、湿気が多いせいか余計に体感的な暑さを増幅させる。
マニゴルドは緩く開いたシャツの襟元をバタバタして思わず呟いた。
「あちー…」
星矢から「日本の夏は纏わりつく暑さ」と聞いていたが、まさかここまでとは。
このうだるような暑さの中でもきっちりとネクタイを締めて涼しい貌をしているビジネスマンや紫外線対策で完全武装した妙齢の女性を見送って、日本人スゲーな…と思いながら、マニゴルドは待ち合わせ場所であるセルフ式のコーヒーショップに入った。
店の中は適度にエアコンが効いていて、その涼しさに生き返った気分になりながらマニゴルドは客席を見回した。
…待ち合わせの相手がテーブルに番号札を置いて携帯を触っているのを確認して、彼は注文カウンターに向かった。
Lサイズのアイスコーヒーをテーブルに置くと、携帯を触っていた銀髪の男…死神タナトスが顔をあげてパチリと携帯を閉じた。
「呼び出しといて遅れちまって、悪いなタナトス様」
「別に構わん。…それにしてもマニゴルド、まるでビジネスマンのような格好だな。見ているこっちまで暑くなる」
「一応、俺の表向きの身分はビジネスマンだからな。それにこの格好でアンタと話してれば、いかにも仕事の打ち合わせしてるように見えるだろ」
「ふむ」
「で、今日の本題だけどよ…」
「キャラメルプリンモカフラペチーノ、お待たせしました」
マニゴルドが鞄からパンフレットを出そうとした時、店員が盛大にクリームの乗った飲み物(パフェ?)を運んできた。
営業用スマイルで礼を言うタナトスの姿にうっとりと頬を染めながら、店員は丁寧過ぎるほどゆっくりとグラスを置き、紙ナプキンとストローとパフェスプーンを並べて番号札を回収して戻って行った。
タナトスは早速、舌を噛みそうな長ったらしい名前のフローズンデザートにストローを挿して飲み始めた。
本当、甘い物を目の前にしたタナトス様はガキみてーだな。
そんな事を思いながらマニゴルドはアイスコーヒーを一口啜ってパンフレットをテーブルに置いた。
「改めて本題だけどよ、旅行先はどこがいい?候補が多すぎても選べねーだろうから面白そうなところを絞り込んでみたんだが」
「…………」
ふとタナトスが真顔になってマニゴルドをしげしげと見つめた。
完璧に整った顔立ちのタナトスが真顔になると正に神がかり的な美しさで、その神に正面から見つめられると落ち着かない事この上なくて、マニゴルドは妙な居心地の悪さを感じながら尋ねた。
「な…何だ?ひょっとして汗臭いか?制汗スプレーはして来たけど…」
「そうではない。意中の女に振られたと言うのに余り落ち込んでいないように見えたのでな」
「え?あ、ああ、そりゃまぁアレだ、神様に『お前の人生女運ゼロ』って言われてりゃーな。今回も駄目なんじゃねーかなーって嫌な予感はしてたし、想定の範囲内の結果に今更落ち込むほど俺は純情じゃねーよ」
「…そうか」
返ってきた答えに微かに笑みを浮かべてフラペチーノを掬うタナトスの姿に、マニゴルドはわざとらしくムッとした顔を作って尋ねた。
「ンだよ。俺がへこんでないからガッカリしたとでも言いたいのか?」
「いや、安心した」
「へ?」
危うく飲みかけたアイスコーヒーを口から零しかけた。
今、『安心した』って聞こえたような気がしたが、聞き間違いか?
タナトスはスプーンを口に運んで、マニゴルドが驚愕に目を見開いているのに気付いて言葉を続けた。
「神も人も、愛する者を失った時は自分の感情を抑えきれず自暴自棄になり、とんでもないことをやらかすことがあるからな」
「あ?ああ、アポロンが失恋した時の逆切れは神話になるくらいスゲーらしいな。オルフェウスも奥さんの後追い自殺しちまったし」
「お前の人生が女に恵まれないものになってしまった責任の一端は俺にもある故、酷く落ち込んでいるようなら何かしらの対策を考えねばと思っていたのだが…杞憂だったようで何よりだ」
「え…あ…うん、まぁ…そう、だな。………」
タナトスが人間の機嫌を取るなど太陽が西から昇るほど有り得ないことだし、彼が心にもないリップサービスを言えるキャラではないことくらいマニゴルドも分かっている。つまり死神の発言も整った顔に浮かんだ安堵の微笑みも偽りない彼の本心と言う事だ。
(はぁ…なるほどな。タナトス様を良く知る奴が『タナトスは無自覚天然最強タラシ』と評する理由がよーーーーく分かったぜ。確かにこりゃ厄介だわ)
自分とタナトス両方が男で良かったと思うべきなのか、どちらかが女だったらむしろ話は単純だったのか…などとアイスコーヒーを飲みながらマニゴルドが答えの無い難問を考えていると、タナトスがパンフレットに手を伸ばしてパラパラと中身を見た。
「北海道、沖縄、島根に石川か。…で?何を基準にこの四か所に絞ったのだ?定番の京都や奈良が入っていないようだが」
「クソ暑い夏だから気候の良い北海道、クソ暑い夏だからこそクソ暑い沖縄、大和の神様の本拠地出雲大社がある島根、旅館ランキング一位の旅館がある石川」
「この中から選ぶなら石川だな」
「決めんの早いなオイ」
「移動手段がお前の車だからここから一番近いところを選んだのだが。…ん?ひょっとして飛行機や電車で旅行に行くつもりだったのか?」
…実に御尤もな理由だった。
…………
海に大きくせり出したテラスに立つと、潮の香りを孕んだ風が鼻をくすぐって吹き抜け、タナトスの銀髪がふわりと揺れるのが視界の隅に入った。
日本海側も暑いには暑いが、海が目の前にあるためか潮風が吹いているためか暑さは余り気にならない。マニゴルドは手すりに肘をついてぼんやりと海を眺めつつ、先日自分を振った女を想った。
(俺は結構、本気であいつを好きだったんだなぁ…)
はぁ…。
マニゴルドは盛大にアンニュイな溜息をついた。
そんな彼の姿を見遣ったタナトスは、これは余計なことは言わずにそっとしておいた方が良いだろうと気を利かせて静かにその場を離れた。
…夏休みの時期だからなのだろう、高速道路のパーキングはかなり混雑していた。駐車場は一杯だし、昼食時でもないのにレストランはほぼ満席だし、土産物屋もぼんやり歩いていたら人にぶつかる程度には混雑している。そのおかげと言うべきか、目深に被った帽子ひとつで『日本では突っ立っているだけで人目を引く』タナトスがいらぬ注目を集めずに済むのは有難かった。
面白い物を見つけたら冥界の皆への土産に買っておくか…と思いながら菓子や雑貨を物色していると、目の前に饅頭の乗った皿が差し出された。
「名物の温泉饅頭です!ただいま出来たてのお味の紹介中です、ご試食どうぞ!」
見れば、店の菓子売り場の一角に湯気の立つ温泉饅頭が入ったセイロが置いてあった。勧められるまま一切れ食べてみると、出来たてだからなのか驚くほど美味い。
皆への土産はこれにするか。いやいやしかし、この先もっと面白くて美味い物が見つかるかもしれぬし、賞味期限の事もある。それに、マニゴルド自慢のポルシェにいきなり土産の温泉饅頭を摘みこんだらふざけんなと文句を言われそうな気もする。しかしこれは確かに美味いから、この先『これは!』と思う土産が見つからなかった時の為に買っておいても良いのではないか…。
タナトスが温泉饅頭を前に真剣に悩み始めたその頃。
たっぷり感傷に浸ってとりあえず気が済んだマニゴルドは、大きく伸びをして振り返った。
「なぁタナトス様、軽く飯でも食っていくか…って、いねぇ!!」
ほんの数分前まで隣で海を眺めていたタナトスがいない。
マニゴルドがいつまでたそがれているか分からないから土産でも見に行ったのだろう。恐らく彼に気を使って、声もかけずに。小宇宙は抑えているとは言え神様だから身の安全は心配ないが、それ以外のところが問題だ。地上の常識は概ね把握しているが時々とんでもないところでヌケている死神様だ、下手にトラブルでも起こされた日には彼に同行しているマニゴルドの責任が問われることになる。
(こーゆー時に限っていらねぇ気を利かせて黙っていなくなるんじゃねーよクソ神!!)
慌てて携帯を取り出して電話をかけたが繋がらない。着信音が聞こえないほどうるさい場所にいるのか、それともサイレントモードにしているのか。
一瞬イラッとしかけて、タナトスの小宇宙を辿ればいいと言う当たり前のことを思い出し、やっぱ失恋の痛手で色々な感覚が鈍ってるのかね…とマニゴルドは頭を掻いた。
…死の小宇宙を辿って土産物屋に入ると、真剣この上ない顔で試食の温泉饅頭を食べ比べているタナトスの姿が見つかった。どうやらトラブルは起こしていないらしいと分かり、ホッと安心しながらマニゴルドは大股に死神に近づいた。
「おいタナトス様。黙っていなくなって何やってんだと思えば温泉饅頭食べ比べか?アンタそれでも神様かよ、庶民的にも程があるだろ」
「ん?お前を待っている間の暇を潰そうと思ったのだが、勧められて食べてみたらこれがなかなか美味でな。皆への土産に良さそうだから、どれにしようかと…」
「まさかアンタ、目的地に着く前から土産を買い込む気だったのか?これから温泉宿に行くのに?途中のパーキングで温泉饅頭を?しかもそれ、俺のポルシェに積んどく気だよな?泊まりがけの旅行の間ずーっと」
「………………」
マニゴルドがジト目で追及すると、タナトスは温泉饅頭を喉に詰まらせたような顔でスーッと視線を逸らした。
ああ全く、この神様は。
んーな子供みたいな反応されたら怒るに怒れねーじゃねーか。
マニゴルドはふーっと息を吐いた。
「旅行の間に良い土産が見つからなかったら、帰り道でこのパーキングに寄って温泉饅頭買ってけばいいだろ。饅頭は逃げねーんだしよ」
「ふむ、それもそうか」
「んじゃそろそろ出発するかね。宿のチェックインの時間もあるからな」
マニゴルドが駐車場に戻ろうと店を出ると、素直に温泉饅頭を諦めたらしいタナトスも後をついて来た。
…何か、小学生の修学旅行を引率してる先生みたいな気分だぜ。
そんな事を考えたマニゴルドが何気なく後ろを振り返るとまたタナトスがいない。驚いて周囲を見回すと、銀色の死神はソフトクリームの屋台の前で立ち止まっていた。
「マニゴルド、地元名物の塩ソフトだそうだ!これなら今買ってもいいだろう?」
「………。勝手にしろよそのくらい…」
ああもう、旅行初日からこれじゃ先が思いやられるぜ。一体どんな面白いことをやらかしてくれるのか見当もつかねーや。
ズキズキと痛み始めた頭を押さえて盛大に溜息をついた彼の口元には楽しげな笑みが浮かんでいた。
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